アフリカとの出会い32
アフリカの日々 「変わらない家族の姿」
   

竹田悦子 アフリカンコネクション

 日本にケニアから戻ってきて、早や6年もの月日が経とうとしている。その間に、私は2人の子供に恵まれた。子供を持つことで見えてきた世界も沢山ある。生活だけでなく、考え方や価値観もそれに伴って随分と変わってくるようになった。そういう変化を経ている自分が、改めてケニアでの2年間を振り返るとき、彼らの「家族の姿」がそのまま今の日本のお手本ではないかと思えてきて仕方がないのである。 


 アフリカは日本から見ると、経済的には発展途上の国々であることは否めない。1日を1ドル以下で生きる人々の割合が40%を超え、失業率は50%以上と言われるが、その統計は正確さを欠いているだろう。実際には仕事がない人であふれている。


 1963年のケニアの独立後、人口は増加しているが、子供の数は減少傾向にある。それは、NGOや国連が子供の数を減らすべくさまざまな家族計画のプロジェクトを実施した結果というよりは、各家庭の経済的要因が大きい。統計によると2007年度でケニアのGNP比は7%の経済成長率を示している。この数字がすべての人の生活が向上しているとはもちろん言えない。


 子供数が減少傾向にあるという事実に、私はケニアの経済や人々の生活レベルが上昇してきているのではないかと考えている。


 ケニア人の夫の家族を例に挙げてみると、祖父母世代(現在80歳以上)、祖父は奥さんが2人いて、1人目の奥さんに子供が15人、2人目の奥さんに子供が11人、合計26人の子供がいる。彼の父母世代(現在50歳代)になると、父は奥さんが1人で、子供が11人(そのうち3人死亡している)、そして彼の世代になると、私たちは今のところ2人の子供だ。


 子供数の減少は、多くのケニアの家族で見られる傾向である。それは増え続ける人口を減らそうとした政策やNGOや国連のインセンティブに反応したというよりは、それぞれの家庭が乳幼児の死亡リスクを考えて行動した結果であり経済状況を判断した結果であり、或いは1人当たりの子供にかける教育費を考慮した結果であると考える。


 まだまだ問題があるとはいえ、ケニアの人々とっては、経済・医療・教育のさまざま分野で質の向上があり、沢山の子供をもうけるよりは、より少ない子供に、より多くの教育費を多くかけるという選択へと変化してきていると思う。特にナイロビをはじめとする都市部では少子化傾向がどんどん進んできているように感じる。といっても平均して3人はいるのだが。


 平均の子供の数が独立後45年の間に減少していく中で、変わらないのが人々の社会の子供に対する姿勢や眼のように思う。ケニアの子育て世代は、そういう社会や地域の中で、異年齢・異民族・そして外国人が多く居る中で、子供を育てる。顔や言葉、文化などさまざまなものが交じり合う中、「子供」は、沢山の人の目や手で育てられていく。日本もそういう時代があったし、今でもそういう地域社会が色濃く残る場所もあるだろう。


 しかし、最近のニュースを聞くと家庭内暴力(DV)、二グレクト、介護疲れ、孤独死など、地域社会が崩壊していることを示す言葉がよく聞かれる。少なくも、今のケニアでは聞かれない。戦後の経済発展を手に入れ、日本は豊かになった。


 しかしその豊かさの先にある今の日本の生活が、在日アフリカ人に聞いてみても、アフリカをはじめ発展途上国が目指しているそれではないことを、残念に思える。



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